March 01, 2009

人生最後の買い物(棺桶)は、他人が決めるのよ


仕方ないから「おくりびと」を見た。

おくりびと [DVD]


みんなが知らない仕事や世界を題材にし、それを紹介しながら笑いをとり、そして物語に引きずり込んでいくという構成は周防正行監督の十八番なんだけど、これは滝田洋二郎監督。で、「おくりびと」も物語の展開がうまく構成されていて、観客の心を離さずに最後まで持ってっちゃうリードっぷりはやはり見事。納棺という仕事を友人や奥さんが汚らわしいと言って拒否するのは不自然すぎたけど、全体的に笑いも上品で、納棺の仕事内容も見れるし、なかなか「上手な」映画だった。

ただ、いかんせん何も残らない。

それは、本木雅弘の苦悩や成長が見えない、すなわちテーマがブレてるからだ。周防監督の「シコふんじゃった。」なら、楽してズルして生きてた大学生がそんな自分を卒業するという明確なテーマが一本あり、それを表現する手段として相撲を利用している。だけど、「おくりびと」は納棺を利用して本木雅弘の何を描いているのだろうか? ぼんやりして生きてきたけど、多くの死を目の当たりにして目が覚めました、ということ? それで解決ならそれでもいいけど、それならしっかり納棺や死と戦って、その上で目覚めてくれ。山崎努と出会ってちょっとしたら、もう目覚めてたじゃないか。納棺師の仕事にやりがいやプライド持ってたじゃないか。

つまり、映画はそこで終わってたじゃないか。

で、終わっちゃったからといって、蒸発した父親の話を引っ張り出してきて誤魔化すのは卑怯だぜえ。蒸発した父親に対する怒りやら喪失感やらが彼を苦しめているのはわかるけど、彼自身にはどうしようもなかった過去の出来事であり、いつの間にか「それを乗り越えなくては前に進めない」みたいにテーマっぽい扱いになっていくなんて、ひどい。政治家の話のすり替えのようだ。しかも、ラストで石ころがころりとくるのは「よくできた」感動ストーリーで、虫ずが走った。モックン自身も直前に「子供を捨てた親は勝手すぎる」と初めて声を荒げて怒ったのに、舌の根も乾かぬうちに石ころ一つで全てを許しちゃって、キリストですか?

そんなわけで、映画館を一歩出ると全部忘れてしまいそうになる映画だった。アカデミー賞獲ってから、普段映画を見ない人もたくさん映画館に駆けつけているが、みなさん何か心に残ったのでしょうか。あやしいもんだ。知り合いのおじちゃんの感想は「本木君の手さばきは上手だったなー」だし、知り合いのおばちゃんの感想は「鳥海山きれいだったわねー」だった。

あと、言わずにはいられないのが広末涼子。下手すぎ。


おくりびと [DVD]
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シコふんじゃった。 [DVD]
シコふんじゃった。


motecinema at 15:05│Comments(0) ★★★ まあまあの映画 

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